創業への想い

菌屋菌パン教室を立ち上げるにあたって、代表の橋本が教室に込めた想いを綴りました。

「手前味噌ですが・・・」
という基本概念が全体を貫く意味

1. 手前味噌ですが・・・


「手前味噌ですが・・・」とは、自分の手と、その家に住み着く菌とで、大事に作った食べ物を、謙虚に人様に分けて差し上げる行為です。この言葉を基本概念として全体を貫くということは、人と自然が何千年もかけて育てた発酵という知恵を共有して繋いでいく、ということを意味します。
広義の意味で捉えると、発酵に限らず、日本が戦後から現代までの間に見失った、多くの大切な日本の伝統文化と知恵を取り戻したい、というの思いも込められています。
発酵は人類の生存に欠かせないものです。そのことを「手前味噌ですが・・・」という人の手から人の手へという、一人一人の小さな働きかけから、未来に繋げていきたいと思ってます。

2. 失敗は存在しない


菌屋菌パン教室のきっかけについてです。私は、たまたま小麦粉好きであり、イタリア料理のオーナーシェフでもあったことから、自家製酵母のパンをお店で作り始めました。同時に、本来のパンのあるべき姿、つまり、小麦粉と水を練って、酵母菌によって発酵させて焼いたもの、という簡素なパンの姿を追い求めました。その結果、お店のメニューやテイクアウトでも評判がよく、「今度はいつ買えるのですか?」という嬉しいお声を聞くようになりました。当時、私1人でパンを作っていた為、たくさん作ることができずに申し訳ないと思う気持ちもあり、また、多くの人に食べて欲しい、作って焼いて欲しい、という想いから、菌屋菌パン教室と暖簾分けを始めようと思いました。

多くの人が作りやすい形態にするために、簡単な配合と作り方はもちろん、「パン作りに失敗は存在しない」という概念を作り出しました。今までの “パンはふっくらモチモチ” のような商業的なパン、または “いつも同じ安定した形” のような決めつけられたパン、というパンの在り方を覆しました。こうして本来のパンのあるべき姿を追求し、約3年ほどの月日を経て菌屋菌パン教室とオープニング講師が誕生しました。
この「失敗はない」というのは、自分らしさ、工夫、発想の転換、努力、挑戦、といった「学び」が必要になり、「自己の独立」を育てることとに繋がると、私は信じています。私は皆さんに、既成概念に捕らわれず、自分で考え自分なりのパンを作って欲しい、そして自由に食べて欲しいのです。
人は、なんのために学ぶのか。それは、日々の生活や人の役立つためです。そのためには、自分が独立しないといけません。独立とは自分で考え判断し行動できるようになることです。個人が独立してるからこそ協力しあえる、個人が家族や地域のために役立つことができるだと思います。
菌屋菌パン教室が学ぶきっかけをつくり、独立した個人が増え、協力しあい、家族や地域が良い状態になることに貢献できれば、こんなに嬉しいことはありません。

3. 簡素

私の人生の信念として「簡素であること」が挙げられます。必要なものが必要なだけある状態です。簡単なことですが、それがなかなか出来ないのが人なのではないでしょうか。
お金があっても幸せになれない、あれもこれもが欲しいと多くを消費して、自分の欲求を満たしても、人は豊かになれない、幸せにはなれないのは、皆さんご存知の通りです。それは、必要以上に消費しまくるの事が、不自然な行動、つまり、自然に対して失礼だからなのだと思います。
必要な時に必要なだけ欲する。自然や周りの環境に対して感謝して頂く、巡り合わせをよくしていく、そうすればいつも心が満たされて、幸せでいられるのだと思います。
菌屋菌パン教室のパンは、まさに簡素を学ぶパンです。

酵母菌、粉、水、という簡素な配合で作ることにより、酵母発酵の基礎、パンの原点を学びます。
必要な材料を必要なだけ使い、必要なだけの作業工程で焼きあげます。そうすることが材料と時間というものを無駄にせず、大事にすることに繋がります。

また、こうして作られたパンは、酵母菌と粉の本来の香りと、しっかりとした噛み応えと、そして何より作り手の思いやりが感じられ、大事に食べることができるのです。

衣・食・住


菌屋菌パン教室を、私たちの日々の生活で大切なこと、「衣食住」に準えて示したいと思います。

① 布 = 纏(まと)う(服・型・役)= 人たらしめるもの、自分らしくするもの = 理性

布は、服を纏う、型を纏う、役を纏う、と捉えることができると思います。また、布は見られないように覆い隠すものでもあり、人を人たらしめるもの、つまり、布とは理性を意味すると思います。
② 食 = 身体づくり(自然・感謝・交流)= エネルギー交換

食べるものが、私たちの肉体を作り出しているのはもちろん、食べるという行為には、自然の恵を食し、栄養とエネルギーを頂き感謝をすること、また、食事という事柄をも、共有し共存していくことを意味しています。正に食はエネルギーの交換を意味すると思います。
③ 住 = 家(信頼・安全・自由)
家は雨風をしのぎ、安心して過ごし寝るところのできるところです。また、家族が折り合いつけて暮らしていくには、譲り合わなければならないこともあり、そこには協力や信頼関係があります。そして、住は、家だけでなく、地域に住むといった広い意味も持ち合わせており、ある特定の環境で時間を過ごすという意味あると思います。

① 布 = 理性

自分の味をつくる
酵母種のその時々の状態により、個体差や差異を楽しみ、その時でしかできない一期一会のパンを作って欲しいです。そして、菌屋菌パンで暖簾分けした一人一人が、自分の意思を持ち活動し独立してほしいと思います。
失敗はない、成功もまたない
先入観にとらわれず探究していくことが、菌屋菌パンを作る人の強い心を育み、その人らしさが開花させます。また、成功がないから失敗がないとも言えます。現状に満足せずに、常に向上心を持って学び続けて欲しいです。

② 食 = エネルギー交換

手前味噌ですが・・・
自家製酵母のおすそ分けは、菌の交換だけでなく、気持ちの交換、感謝の交換であり、人と人との繋がりに貢献する事を意味しています。
感謝の伝書鳩
菌屋菌パンは、自分の手で酵母菌から心をこめて作るものです。贈りものとして、大事な方にプレゼントするに相応しいパンです。このパンには造り手の想いが込められており、食べた人もきっと心温まり、活力に満たされることでしょう。食材と作り手の間には感謝が、また、送り手と受け取り手の間にも感謝が生まれます。菌屋菌パンは「感謝の伝書鳩」です。

③ 住 = 環境

発酵食と相互理解
菌屋菌パンの酵母菌、またはその他の発酵食を育てるには、季節、毎日の温度の変化、風通しなど、その環境を知る必要があります。それが家、家族、地域を知ることとなり、家と自分、誰かと自分との、相互理解を深めることになります。

自由
菌屋菌パンを作る人、食べる人、伝える人が協力し合い、菌屋菌パンについてだけでなく、日常の現実や未来についてを正直に自由に話すことのできる、安全で信頼しあえる環境をつくりたいと思っています。


おわりに

菌屋菌パン教室の講師の皆さんは、其々ご自分の専門分野や得意分野がおありだと思います。例えば、発酵、料理、食材、農業、自然環境、腸内環境、心身健康、経営…など挙げればきりがありませんが、専門分野に進めば進むほど、パンの全体像が見るのが難しくなってしまいます。そうならない為に、私たち一人一人が菌屋菌パンの理念である、この『我が想い』を心に留めて、大きい理想の絵を描いてみることが大事です。そして、各々の専門分野を活かして、自分らしい菌パンを作ってほしいというのが私の願いです。
皆さんが迷った時に、いつでもこの理念『我が想い』を見返すことができる様に共有していきたいと思っています。そして、この内容は時と共に更新するでしょう。皆さんと一緒に変化して成長していく理念であり、皆さんと一緒に焼きあげるパンなのです。